産婦人科の問診票
妊娠33wの妊婦です。
10年ぐらい前に中絶をした経験があります。
自分の中ではとても辛い思い出で、
その記憶に蓋をしたまま生きてきました。
月日は経って、今の夫に出会い、
この人との子どもがほしいと思いました。
妊娠がわかったとき、戸惑いながらも嬉しくて
ハッピーな気持ちで病院に行きました。
初診の問診票の項目のひとつに
過去の妊娠、中絶のことを書くところがありました。
それを見た時に10年間フタをしていた記憶が
ブアーっと蘇ってきました。
でも、どうしても「中絶経験あり」とは書けず
「なし」と嘘をついてしまいました。
最初は、その嘘をつくことで経過をみるのに
支障があったらどうしよう。。ということしか
考えていなかったのですが
エコーで自分の子どもが育っていくのを見ているうちに
10年前に中絶してしまった子のことを
猛烈に後悔するようになりました。
あのとき産んでいたら・・・と思うけど
どうしても産める環境ではなかったし、
今の幸せはあのときの判断があったからだと
理解しているのですが。
どんどん人間らしい姿になっていくのを見て
ああ、私は1人殺してしまったんだ・・・
と苦しくなってしまいます。
今は、中絶してしまった子の分まで
おなかにいる子のことを大切にしたいと
思っています。
言いたくない、思い出したくない
いろんな事情での中絶や辛い流産など、
問診票に書かずに健診に行き続けると
医師や助産師さん的にはどのような困ることが
予想されますか?
必ず書いて伝えなければならなかったのは
承知しているのですが
33wに入ったところでいまさら過去の中絶のこと、
先生にお話ししたほうがいいでしょうか?
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産婦人科の問診票って
かなりデリケートで、プライバシーに関わる質問ばかり。
答えにくい、言いたくない質問項目がたくさんありますよね。
初経年齢
独身か既婚か、
離婚歴、再婚歴、またその時期
え、それって必要?
なんでそんなこと聞くの?
と感じることも多いと思いますが
そのひとつひとつの質問項目に意味があるのです。
たとえば、性行為の経験の有無は、
診察方法や診察器具のサイズ選択、
そして患者さんの症状が性的接触や
妊娠に関わるものか鑑別するための参考になります。
流産の回数(繰り返している場合)には
おなかの中で赤ちゃんが育ちにくい体質(不育症)の
可能性の参考になり、
次の妊娠で同じことを繰り返さずに済むような
検査や治療の選択肢がを検討する
重要な手がかりになります。
中絶歴を質問する目的は
何度も中絶手術を受けている場合に
子宮内膜がごっそりと削り取られて薄くなり
受精卵が子宮内にうまく着床できない状態に
なってしまう可能性があるからです。
また、手術のたびに
子宮口を無理矢理押し拡げる処置を繰り返せば
いざ産もうと思った妊娠時に
子宮頸管無力症になってしまい
いきなり子宮口が開いて破水するなどして
死産になってしまうこともあります。
正確な中絶回数の情報が事前に医師に伝わっていれば
このようなリスクを想定して
妊娠初期〜中期に子宮口を開かないように縛る手術
(頸管縫縮術)が検討されることも。
度重なる中絶手術で
子宮内膜が薄くなっている場所に胎盤が付着したら
癒着胎盤のリスクが上がります。
それはつまり、分娩時の大出血のリスクです。
昔、産婦人科で勤務していたとき
こんなことがありました・・・。
臨月の妊婦さんが
大量出血で病院に運ばれてきたんです。
1番に思い浮かぶのは
常位胎盤胎盤剥離ですが、
エコーで確認しても胎盤はキレイでした。
ハテナが飛び交う中、
一刻を争う緊急帝王切開になりました。
その結果、わかった大出血の原因は
子宮穿孔でした。
彼女の初診時の問診票には、
中絶経験は「なし」になっていましたが
子宮穿孔の原因を探っていく上で
中絶歴を再確認しなければならない事態に
なりました。
そして
『過去に繰り返した中絶手術によって
薄くなった子宮壁が
妊娠末期にさらに薄くなって破れてしまった』
ということが明らかになったのでした・・・。
書きにくいことを書いてもらうので
自己申告の問診票の内容には
ウソがあるかもしれない可能性は
医療関係者は当然、想定内ですが
安全で的確な医療やケアの提供のためには
思い出したくないことであっても
できるだけ正確な情報を記載していただきたいのが
本音です。
幸いにも、妊婦さんも赤ちゃんも助かりましたが
発見が遅れれば母子ともに危険な状態で
冷や汗をかいたのを覚えています。
とはいえ、
1回や2回程度の妊娠初期の中絶歴で
その後の妊娠経過に重大な影響を及ぼす可能性は
ほとんどありません。
なので、辛い中絶歴はカミングアウトしなくても
おそらく問題なく無事に出産されると思います。
その上で、
わたしが遭遇したようなケースは
滅多にないことかもしれませんが
問診票のウソは、ときに・・・
本来行うことができるはずだったリスクヘッジの
妨げになってしまうこともあるのです。
医療者は、予期せぬ事態や急変に
迅速に対応するために
聞きづらい項目もあえて情報収集しているのだと
いうことを念頭において
真実を伝えるのか、それとも隠し通すのか
判断していただけたらと思います。