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2020.11.06

12回目のお産。涙の理由はなんだったのか

どんな出産法であれ、
無事に、安全に、赤ちゃんがこの世に
生まれてきてくれさえすれば
望むことは何一つない。

極論、その通りです。

だけど、頭ではそう思っても
いきなり

「緊急帝王切開に切り替えます」

と言われたら

まさかの展開に気持ちがついていかず
呆然としてしまう妊婦さんは多いです。

自然分娩にこだわっているつもりは
ないはずなのに

なんだろう・・・
このなんともいえない喪失感・・・

9日前、
わたしは手術室にいました。

「低置胎盤における帝王切開術、始めます」

執刀医の掛け声とともに
手術が始まったと思ったら

次の瞬間には赤ちゃんの産声が
耳に飛び込んできました。

・・・え?
もう?

正直、あまりのスピードに
気持ちがついていかず。

予定帝王切開だったので
心の準備は万端に挑んだはずでした。

助産師として
帝王切開の介助に入っていたときは
このスピード感、この流れが普通であって、

時間感覚として、「早い」とか「遅い」とか、
当事者の気持ちの問題として、
妊婦さんの感じ方を
考えてみたことはありませんでした。

今回、自分が初めて
切られる立場になってみて

現実に赤ちゃんが取り出される速度と
わたしの心がそれを受け止めるために
要する速度とのギャップにひるみました。

過去の11回の出産は
すべて経膣分娩だったんです。

多産なので
わたしの産道は、
もはやウォータースライダー!(笑)

分娩開始から分娩終了まで
超スピード分娩ですが、

それでも、数時間の猶予はあり
お産を味わうに十分な時間を
与えてもらえていたと思います。

だからかな?
(いや、わからんけど)

赤ちゃんが生まれた瞬間
感動はあるんだけど
泣いたことは過去に一度もなかったんです。

ですが、今回の12回目のお産。
帝王切開で生まれてきた
わが子の産声を聴いた瞬間

予期せぬ現象が
わたしの身に起こりました!

いきなり目頭が熱くなって。
涙が溢れてきて止まらない・・・
もはや自制不能!

お産で、こんな体験はじめてで
涙のワケを客観的に検証しようにも
答えが見つからず

涙を誘うに値する
自分が味わっている『感情』そのものが
わからない!!!

なにこれ?
わたし、なんで泣いてるんだろう・・・

感動?
安堵?
コロナで立ち会えなかったから?

それとも・・・?

手術が終わったあとも数時間にわたって
意味不明な涙は止まらず
回復室でわたしはずっと泣き続けていました。

無事に生まれてよかった。
どんなお産もすべては素晴らしい。
女性はすごい!

心からそう思っています。

ネガティブな涙ではないのは確実。

だけど、そんな気持ちと裏腹に

11回も経膣分娩を知っているからこそ
帝王切開との歴然とした進行スピードの
相違を目の当たりにして

もしかしたら

〝この子の母になった〟

その感覚や達成感がつかめないまま
どこか他人事のように過ぎていったお産に対し、

悔しいでもなく
奪われたでもなく

だけど、どこか
置いていかれた感からの
涙だったのかもしれない・・・と思ったりして。

お産を、子宮を、いのちを。

とても大切に想っていたからこそ
固執するぐらい強い想いがあったからこそ
わたしの心は無意識に
混乱してしまったのかもしれません。

多くの帝王切開経験者たちは
心のどこかで後ろめたさを感じていたり
現実を受け入れることができずに
モヤモヤ、とても苦しい産後の日々を
送っておられます。

なんで帝王切開になっちゃったんだろう・・・

ううん、
無事に生まれたんだから
それだけでとても幸せじゃない?

そう思って
笑って過ごそうと努力するけど、

誰のせいでもないってわかっていても、
ネガティブな発想しか浮かんでこず
モヤモヤは心に重くのしかかったまま・・・
そんなママたちを大勢見てきました。

〝帝王切開も立派なお産〟

そうなんだけどさ!

・・・そうなんだけど

そんな単純に
片付けられるモンじゃないんだよ。

それがママの心
人の心なんだってことも
今回、自分の涙を通して知りました。

今まで

「帝王切開で産みました!」

「おなかの中で10ヶ月もの間
命を育ててこの世に送り出すことが
できただけですごい」

みんなに、
胸を張って笑顔で帝王切開を語れるように
なってほしいって
助産師として思っていました。

自分自身が帝王切開を経験してみて
その想いは強い確信になった反面

綺麗事ばかりではなく
ときにちょっとネガティブな感情や
自分を正当化しようとする心が
芽を出すことだってあるんだな、ということにも
気づきました。

産声を聴いた瞬間
言葉で説明できない感情が溢れてきて
涙が止まらなかったわたしのように

理屈じゃ語れないような
いろんな想いがとめどなく
吹き出してくるのが
『出産』であり

「どんなお産も素晴らしい」
という、理想論、精神論を唱えるだけじゃ
薄っぺらすぎることも
改めて実感したのでした。

帝王切開を
前向きにとらえることのできたママにも
そうでなかったママにも、

自分の素直な想いを
さらけ出せる環境があったら
いいなぁと思います。

傷ついた心を
受け入れられずにいるママには
薄情な表現に聞こえるかもしれないけど

その経験は、
また次の誰かを助けたり癒したり
してあげられることに必ず
つながると思います。

辛かった想いは
いつしか同じ辛さを抱えた人たちのために
活かされるかもしれないと思うだけで
忘れてはいけない大切な
思い出にもなりますね。

同じような経験をして
共感できることもあれば
違う経験、違う感じ方、
本当にいろいろだと改めて思います。

「経験できなかったこと」
の意味(価値)もあります。

産むことはもちろん尊いけれど
子どもにとって大切なのは
その先どう育てられていくかです。

また、産んだから偉いのでもなく
これからこの子への関わりのすべてが
大切になっていくと思うと
イライラし続けの子育てにも
喝が入ります。

帝王切開・・・

産道を通ってないから弱いんじゃない?
母乳出ないんじゃない?
我慢強くないんじゃない?

いろいろ周囲の声もあると思います。

でも、ほんとに
生まれ方とは関係ない!って
子どもとの歴史を積めば積むほどに
気づかされ

それを教えてくれるのは
子ども自身です。

だから、
帝王切開を経験した今
理由もわからず泣いちゃった自分の
隠れていたホントの気持ちに寄り添うことができ

嬉しかったと同時に
面食らったし、
驚いたってことはあるんだけど

出産はゴールじゃないし
10ヶ月も1つの命を大切に
育んできたことがすごい。
誇りに思ってほしいという気持ちは
より一層強くなりました。

みんなみんな、
子どもへの愛で溢れています。

そしてママ自身の『生き方』にも
こだわりを持ち、
ママとして。女性として
輝こうとする姿に
拍手を送りたい気持ちでいっぱいです。

みんながわたしと同じ
価値観ではないだろうけど

帝王切開で出産した経験が
今のあなたをほんのちょっとでも
苦しめているのなら

その拭えない想いを認め
否定したり、押し込んだり、見ないふりをせず
話したり、聴いたりして
ときにはどっぷり浸かってみてほしいなと
思います。

コロナ禍の帝王切開
たったひとりで挑んだからこそ
わたしは自分の涙とじっくり
向き合うことができました。

ポロポロこぼれ落ちる涙
我ながら、なんて素敵なんだろう
と思ったんですよね(笑)

理由探しなんかいらないのかも。

揺さぶられる感情のままに、
泣けるままに、
思う存分、泣けばいい!

わたしの知らなかったわたし。
新たな一面。

再発見できたことは新鮮で
とっても嬉しかったです。

そして、本当に本当に
素晴らしい経験をさせてもらったことに
ただ感謝です!

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