カイザー・シュニット(帝王切開)
帝王切開。
日本でも5人に1人が経験するほど
ポピュラーになった分娩法です。
母体や胎児になんらかの危険が迫り
通常の分娩が難しいと判断されたときに
ママと赤ちゃん両方を助けるために
子宮を切開して赤ちゃん誕生を
助けてあげる手術です。
中世ヨーロッパでは
妊婦が亡くなった場合に
おなかを切開してすでに亡くなっている
胎児を取り出し、
2人同時に埋葬することが法律で
定められていたそうです。
その後、
生きた妊婦への手術を試みました。
でも、宗教的な理由なのかどうか
定かではありませんが、
当時は「子宮を縫合してはならない」
と信じられていたようで
全例が出血で亡くなる結果となっていました。
そして1876年。
当時の医学では
縫合技術が未開拓だったため
子宮温存のまま出血コントロールができず
子宮全摘出で止血に成功。
1881年にようやく
切開した子宮を摘出せずに
縫合する技術と無菌法が普及し、
20世紀のはじめには
現在の帝王切開の原点となる術式が
できあがり、
帝王切開による死亡率は劇的に減少、
現在に至ります。
でも、この手術の何が
『帝王』なんでしょうね。
ドイツ語では帝王切開を
Kaiser schnitt(カイザー・シュニット)
といいます。
日本でも、周産期医療の現場では
帝王切開は「カイザー」と呼ばれたりします。
schnitt(シュニット)は
「切開する」という意味。
Kaiser(カイザー)には
2つの意味があって
ひとつは、「分離する」
もうひとつは「帝王」
つまり、ほんとなら
『母子を分離する切開手術』
と訳されるはずのところ、
なぜか「皇帝」の方の意味が使われ、
「帝王切開」になってしまったそうです。
完全に誤訳ではあるのですが、
『帝王のための手術』だなんて
すごく斬新でロマンティックなネーミング!
なんだか特別感がありますよね!
手術で生まれてくる赤ちゃんはみんな
帝王のごとく、尊い存在!
と(むりやり笑)考えてみると、
帝王切開、悪くないんじゃない?
と思えてきませんか?
そうです!
帝王切開は特別な手術なのですよ!
帝王切開は残念なんかじゃありません!
例えば、多くの女性は
まったく手を加えない
自然でスローなお産が赤ちゃんにもママにも
一番よいと思ってしまいます。
自然という言葉には何かしら
引き込まれるいい響きがありますよね。
でも、自然であることは
ときに悪さもすれば
不合理なものにもなるのです。
長時間の子宮収縮にさらされて、
ストレスで赤ちゃんがしだいに弱ってくる前に
早めに、的確に、短い時間でお産を
終わらせることは、
ときにとても重要なのです。
ちょっと素敵な、
『帝王切開』という言葉は
誤訳だけど、多くの国で受け入れられ、
日本でもそのまま定着しました。
先日、逆子で帝王切開になったママが
こんな話をしてくださいました。
「『帝王切開』というぐらいだから
うちの子は選ばれた子なんです。
1人目が帝王切開だった場合、
2人目も同じ場所を切るんでしょうけど
わたしはこの傷を勲章だと
すごく誇りに思っているので
1人目が生まれてきた跡。
2人目が生まれてきた跡。
3人目が生まれてきた跡。
どの傷跡が
どの子の勲章か見てわかるように、
数ミリずつでもずらして
2本、3本の傷にしてちゃんと残してほしいって
思っているんです。
多くの人が帝王切開の傷跡を
マイナスにとらえていらっしゃるけど
わたしの考え方って、おかしいですかね?」
おかしくないです!
素晴らしい発想です!
帝王切開をこんなふうに
ポジティブにとらえられるっていいですよね!
帝王というぐらいだから特別な手術。
そんなふうに考えることができたら
おなかに残った傷跡と上手につきあっていけそうです。
感動しました!!!