浅吸いが原因の乳口炎でしょ?
乳頭の先に3mmの円形の大きな炎症を抱えて
来院されたママがいました。
赤ちゃんはまだ生後1ヶ月。
授乳開始してまもなく、みるみるうちに
乳頭の先にプックリと血豆ができてしまいました。
痛いけど、飲ませなあかん!
激痛に耐えながらの授乳・・・
おおお〜〜〜考えただけで卒倒しそうー。
とうとう血豆がつぶれて潰瘍を形成し、
傷のある部分からは母乳がうまく出てこなくなりました。
おっぱいの一部は硬く、
しこりになってしまいました。
困り果てたママは
出産した病院を受診しましたが、
産婦人科から皮膚科へ回され、
詰まっている乳頭を針で突かれました。
ママのイメージでは、
針で突いたら乳腺が開通して
溜まっていた母乳が噴水のように吹き出し
しこりはスッキリ治る・・・
そう考えていましたが、
実際には、針でぐりぐりされた箇所は
血まみれになっただけで
そこから母乳は出てきませんでした。
傷はさらに大きくなり、
ステロイドと抗炎症剤の軟膏を処方され、
皮膚科から、形成外科に回されました。
形成外科では、
切開したほうがいいと言われました。
ただし、切ると乳腺の一部を潰してしまう可能性が
高いので、授乳を続けていくには
不都合になるかもしれない・・・と。
さらに、
この傷は悪性の可能性も否定できないと衝撃の宣告。
すぐに切開して検査するか、それとも
このまま授乳を続けながら
様子を見るか、どうしますか?と。
様子をみて大丈夫なの?
切ったら授乳できなくなる?
乳腺の一部が潰れるってどういうこと?
想定外の展開に
ママはパニックでした。
そういうわけで、
パパ同伴のもとばぶばぶに来られたのでした。
○授乳を開始する以前は
乳頭にはとくに傷はなかったこと。
○授乳開始後、痛みを伴う授乳の結果
血豆ができたこと
○血豆が潰れても痛いのを我慢して
保護器を使って授乳を続けたこと
○赤ちゃんは黄疸が持続中、
眠りがちで授乳間隔が3時間以上あくことも多かったこと
○皮膚科で針で突かれ、血まみれになったこと。
以上5項目から考えて
乳頭の傷は、
産後間もない不安定なママおっぱいと、
生後間もないスタミナと高度なテクニックに
乏しい赤ちゃんというカップルが、
不適切なポジショニングでの不適切な授乳で
浅吸い&ゆがめ飲みを繰り返したために起きた
必然的な『理由ありきの傷』であることは明らかです。
そして浅飲みになっているにもかかわらず、
授乳間隔をあけてしまったため
乳頭、乳輪部にむくみが生じ、
マッサージをして柔らかくしてから吸わせる
ちょっとした手間を誰も教えてくれなかったがために
そのまま授乳して
さらに浅飲み、歪め飲みが助長されたのでした。
傷は回復どころかどんどん悪化し、
とどめは針で突くという行為によって
とうとう潰瘍を形成してしまったと思われます。
潰瘍形成部の乳口と、その周辺の乳腺は
乳管の壁の一部がもろく弱くなって破れます。
本来乳管内に存在すべき母乳へと移行する血液や
母乳になっていこうとする
中途半端な乳汁用分泌物は
乳管外に漏れ出します。
浸出した液体は、周囲の組織を圧迫し
むくみが出て硬くなります。
こうなると、乳管内の母乳生成工場は
正しく機能しなくなり、故障した機械のごとく
不良品(母乳になりきれない母乳)を
作り出してしまいます。
もしも、しっかりと完成度の高い母乳を生成できて
かつ、それが乳管内に留まって
ただ溜まっていただけなら
皮膚科での処置、針で刺す、をやれば
開通したところから
真っ白な母乳が吹き出したかもしれません。
でも、今回のママのおっぱいトラブルの原因を
大元から探っていけば
針で刺しても無意味。。。
というか、事態を深刻化させるだけだということは
明確だったはずです。
乳管は漏れ出した液体成分によって圧迫され閉塞し、
狭くなった管の中を生成された母乳は
円滑に流れづらくなります。
そんな状態で授乳しても
赤ちゃんは飲みにくいし、まずいし・・・
真面目に飲んでくれなかったり
トラブル起因の浅飲み、ゆがめ飲みが
もっと顕著になります。
悪循環のまま放置すれば
乳腺炎を起こすリスクとなります。
わたしには、
切開しなければならない理由が
見つかりませんでした。
たしかに、傷は大きいし、
膿瘍形成していて
かなりかわいそうな状態です。
でも「悪性の可能性」なんて
話が飛躍しすぎだと感じました。
その根拠は、傷を膿瘍化させ
悪化させる理由が
あれも、これも、
わたしにはいくつも思い当たったからです。
悪性かどうか、は、
乳口炎を発症した原因をひとつずつ
改善させる対処を取ってからでも
遅くはないと思いました。
しばらく授乳を続けて
様子をみてもいい、という選択肢も
形成外科では与えられたとのことでしたが
ということは、
「待てる」ってことですよね?
切開するリスク・・・
赤ちゃんにおっぱいを飲ませたいママの気持ち。
そこに寄り添えば
「切開」の選択肢はママを混乱させる材料でしか
ないように思います。
それ、今、
伝えなくてもよかったのでは?
とりあえず、
正しいくわえさせ方、
正しい授乳のリズム、
正しい傷への対処法、
正しい搾乳の方法、
ママのおっぱいの状態、
赤ちゃんのスタミナと発育発達状態
ママの気持ち
パパの気持ち
いろんな側面から観察し、
慌てずゆっくり
導いていきたいと思います。