無痛分娩・帝王切開。お酒が強いと麻酔が効かないの？

陣痛の痛みを麻酔で和らげる無痛分娩。
日本でも珍しくない時代になってきました。

海外ではかねてから

『回避しても有害にならない痛みは
鎮静させるべきである』

という合理的な考え方のもとに
無痛分娩はごく当たり前に行われていましたが
ようやく、日本も先進諸国の標準医療に
追いついてきた感があります。

平成なかばごろまでの日本では
『痛みを乗り越えてこそ母親だ』
根性論や精神論が先行する世の中の風潮が根強く
無痛分娩は自然に逆らう行為だと
否定的にとらえていたり、
その安全性に疑問を抱く人も
多かったように思います。

晩婚化、高齢妊娠、不妊治療などの影響もあり
無痛分娩とともに産科麻酔を使用する分娩法の代表格、
帝王切開も4人に1人という
時代になりました。

多くの女性が、
産科麻酔のお世話になる機会がありますが、

『お酒が強いと麻酔が効きにくい』

という噂を聞いて、

麻酔が効かないんじゃあ
無痛分娩どころか帝王切開なんか無理やん！！

となっている妊婦さんに
ときどき出会います。(^◇^;)

アルコールを分解、代謝する肝臓は
麻酔薬を分解する臓器でもあります。

つまり、お酒をよく飲む人は、
アルコールや麻酔薬を
分解、代謝する能力に優れている・・・

てことは、
麻酔も効かへんのちゃうん！？

という発想ですよね。

でも実は、お酒を〝めっちゃ〟飲む人は
逆に麻酔が効きやすい傾向があると
言われています。

深酒によって常に肝臓に負担がかかっていると
アルコールや薬物を分解代謝する酵素を
円滑に使えない状態になっている場合が
あるからです。

ですので、
大酒飲みで肝機能が良好とは言えない人が
全身麻酔をする場合には、
麻酔薬を分解代謝できず、
麻酔が効き過ぎて目覚めるのに
多めに時間を要することさえあるんです。

全身麻酔では、点滴で血管に直接
麻酔薬を注入し、
脳に作用するのと同時に、
薬剤は血行性で直接肝臓に届きます。

麻酔が効き始めると同時に
肝臓では薬剤の分解が始まります。

肝機能は元気！
健康は維持できていて、なおかつ
「わたしお酒強いです！！」
という体質の人は

アルコールや薬剤を代謝する酵素が
人一倍働き者だということが考えられるので

全身麻酔が効きにくい・・ということは
多少は言えるのかもしれません。

とはいえ、麻酔医は
薬剤の量や濃度を細かく調整していくので
麻酔がまったく効かなかった！
なんてことにはなりません。

そもそも麻酔薬の効き方には個人差があるし、
飛び抜けて麻酔が効かん！
なんてことはありません。

もし仮に、鎮痛が不十分であれば
麻酔科医はちゃんと対処するので
心配しすぎないようにしてください。

無痛分娩や帝王切開などの
局所麻酔（痛みだけを取り除いて意識はある）では
痛みをブロックする脊椎の神経に直接作用します。
全身麻酔のように脳には作用しません。

血管の中に薬剤を直接注入するわけではないから
薬剤が吸収され肝臓に送られるまでには
時間を要します。

薬剤が血液内に吸収されるころには
無痛分娩、帝王切開ともに
もうとっくに終わってますね〜♪( ´▽｀)

麻酔が効く機序で、
その麻酔が効くまでの間に
肝臓を通るか通らないかが影響するわけです。

ですので、局所麻酔では
分娩中に麻酔薬を肝臓が分解することはないため
お酒が強くても弱くても
麻酔の効き具合に差は出ません。

また、妊娠中にデロンデロンに酔っ払うまで
お酒を飲む人はそういないですよね。
ほとんどの人はお酒をやめるか、
飲んでもほんの少しにセーブしているはず。

なので、妊娠前にめっちゃ飲んでた人でも
禁酒妊娠期間を経て、
肝臓から分泌される酵素は
麻酔薬をしっかり分解代謝してくれますから
安心してくださいね！

それでもこれまでに

「帝王切開、無痛分娩、
麻酔あんまり効かなかったんだけど！」

という人は

恐怖、不安、緊張、
リラックスできていないことで
必要以上に痛みを感じやすかった
ということもあるかもしれませんね。

無痛分娩のときには
痛みはブロックするけど、運動機能は残します。

麻酔が効きしぎて下半身に力を
入れることができなかったら
いきむことができませんから。

ですので、
痛みはそんなにないはずなんだけど
赤ちゃんが出ようとする〝感覚〟は残されるわけで
それを痛みとして感じてしまう妊婦さんも
いらっしゃいます。

また、硬膜外腔という
何ミリレベルの細いところに
麻酔のカテーテルを留置しますが、

妊婦さんが暴れてしまうと
カテーテルの位置がズレて
麻酔が効きにく感じられたというのも
なきにしもあらず・・・。

そして、この麻酔は
緩やかに効くので
（だから赤ちゃんにも負担がない）
効き始めるのに30分ぐらいかかります。

お産が思いのほか急激に進んだ場合には

「効き始める前に生まれちゃったー！
めっちゃ痛かったんですけど！」

ということも。(^◇^;)

梅雨あけた途端にめっちゃ暑くて
ビールや酎ハイが美味しいですが、
産科麻酔の効き目とお酒の強さは関係なくとも
お酒はほどほどに楽しみましょうね！