浅吸いはダメなのか？

出産して間もなく

「赤ちゃんがドナルドダックの口をしてくれません。
入院中の授乳指導で
この子は飲むのが下手だと言われたんです・・・」

そう言ってばぶばぶに来られた
ママがいました。

産院の授乳指導では

『大きな口を開けてママの乳輪から深くくわえ込み
上下の唇が口の中に巻き込まないように。
上唇、下唇が内側に巻き込まれていたら
ママの指でやさしく外側にめくり、
ドナルドダックみたいな口の形にしてあげましょう』

と、指導されることが多いと思います。

確かに、
浅吸いが長く続くと乳頭には傷ができやすくなるので

母乳をうまく飲むためには、
赤ちゃんは大きく口を開けなければならない。

唇を巻き込まない口の形が必須である。

という考え方が助産師の間でも
一般的だと思います。

でも、浅いチュクチュクした吸い方のときに
深くガバッとくわえさせようとしても
赤ちゃんは乳首を押し出そうとしたり
のけ反ってギャン泣きするのがオチです。

真っ赤になって激しく抵抗する赤ちゃんに対して
ドナルドダックができるまで
頭を押さえ込んで
何度でも何度でも、くわえさせ、離し、
また仕切り直しでくわえさせ・・・・

適切な吸着を強要、特訓しようとしても
ママが大汗かくだけ。
噛み合わない歯車に心が折れてしまいます。

なんのスパルタ特訓やねんー。

ドナルドダックの口って
母乳育児をする上で絶対に必要な条件なのでしょうか。

赤ちゃんには吸啜反射がありますが、
なんでもかんでも、
いつでもどこででも、
舌の上にのっかったものを吸い始めるとは限りません。

赤ちゃんが泣いていることには理由があります。
赤ちゃんがおっぱいをドナルドダックで飲まないことにも
赤ちゃんなりの理由があったりします。

「理由」つまり、
赤ちゃんの気持ちに寄り添うこともなく
ただ授乳に適した口の形を
してもらうことは正解ではないと思うのです。

赤ちゃんの吸啜反射には
２種類あります。

１）母乳を飲みたい、やる気満々の吸い方
２）母乳は飲みたくない、癒しの吸い方

生後２ヶ月ぐらいになると
げんこつしゃぶり（指しゃぶり）なども
始まりますが、

あれは、２）の反射ですね。

赤ちゃんが眠っているときに
無意識にお口がおっぱいを飲むときのような
チュクチュクした仕草になることが「あります。

あれも２）の反射です。

ですが、ママや育児支援者が
常に１）の吸い方をしてもらわないと困ります！
というスタンスを赤ちゃんに求めたならば

２）母乳を飲みたくない、の吸い方は
ドナルドダックにはならないから
『不適切な吸い方』『下手』と
判断されることになってしまいますよね。

冒頭の赤ちゃんが
『飲むのが下手』と言われたのは
そういう観点からの言葉だったのではないでしょうか。

ときに、赤ちゃんは
ドナルドダックの口が「できない」のではなく、
「したくない」「わざとしない」のです。

だったら、気分が乗るまで待ってあげたら
いいんですよ。

大人は「待つ」のが苦手ですよね。

赤ちゃんが泣いていたら
なにかしてあげなければ、と思ってしまうし

すべての授乳において、
赤ちゃんの口はいつでもドナルドダックの口にしなければ
ならない、と思い込んでいます。

いったん無理やり授乳をやめて
縦抱きにしてベランダに出てみるとか、

ほんの少し環境を変えて
「待つ」をしてあげると
気を取り直して吸い始めたりすることもありますよ。

そもそも、
どんな赤ちゃんでも、吸い始めはおちょぼ口でチュクチュクします。
授乳のウォーミングアップです。

このときの吸い方は
口を小さくすぼめて乳頭を深く巻き込まないようにします。
舌は口の中で奥に引っ込んだ場所にあるので、外からは見えず
大人でいう、ストロー吸いのような
ほっぺたにペコっとえくぼができる口の動かし方をします。

やがて母乳が湧き上がってくると
いわゆるドナルドダックの口、と言われるように
大きな口を開けて
舌を下唇から前に出すようにして乳輪全体をとらえるような
動かし方をしてゴクンゴクンと飲み始めます。

このような吸い方をしているときは
口角の隙間から舌がチラチラ見えます。

適切な吸着で母乳を飲むときでさえ
浅吸い→深吸い
段階を踏んで、口（舌）の使い方を変化させて飲みます。
それが赤ちゃんの吸い方の『本質』なのです。

つまり、赤ちゃんの哺乳行動、
母乳分泌のメカニズム、
生理学的なところをきちんと理解すれば、

授乳開始時、最初から
ドナルドダックのように大きな口を開けて
唇を内側に巻き込まずに深く吸着することを
赤ちゃんに求める自体が
いかに生理学から外れた強引な要求なのかわかるはずです。

口を少しすぼめたような動きも、
赤ちゃんにとって不変的な動きなのです。
下手なんじゃないんですよ。
ただ、その段階にあるだけのこと。

なのに、赤ちゃんに様子をろくに観察せずに
大きな口を開けさせる特訓がいつも必要！
浅吸いはダメ！っていう考え方、
「下手」のレッテルを貼られるなんて、
赤ちゃんがかわいそうですね・・・。

赤ちゃんの哺乳行動には
２つの口の動かし方があるのですよ。

ドナルドダックの口にならない浅吸いを
「悪」「下手」と
短絡的に評価しないようにしてあげてくださいね。