医師的見解・助産師的見解
6月のはじめ
左足首のじん帯損傷をやらかしました。
1ヶ月経ってから受診しました。←その時点で問題や!
「安静にしなかったでしょ!」(泳ぎに行きました)
「歩いたでしょ!」(全力疾走しました)
( )の部分は医師には言えませんでしたが(^◇^;)
「じん帯これだけ派手にやっちゃうとね〜
こりゃたぶん秋まで痛いよ」と。
もう3ヶ月近く経っているのですが、
まだ地味に痛くて、
ちょっと左足をかばって生活しています。
先日、整形外科再受診。
診察を待っている間に、隣の診察室から
声が聞こえてきました。
28歳女性。
産後2ヶ月、赤ちゃん連れ。
右の骨盤に違和感と鈍痛。
出産時に子宮頸管の裂傷でかなり出血し、
そのときに助産師さんに
おしりの骨が歪んでるかもしれないから
産後、骨盤矯正行った方がいいかもしれないよと
言われたのだそうです。
産後2ヶ月経過したけれど
今も骨盤が痛いとの訴えでした。
内容が内容だけに、
耳ダンボになるじゃないですかっ!
助産師の血が騒ぐ。
聞き耳立ててごめんなさい。
どうやらレントゲン上では
骨盤、腰椎、股関節ともに
明白な異常は認められなかったようです。
さあ、整形の医師の見解は?!
患者さんに何て説明するんやろ?
「本来、女性の身体は
出産を終えると授乳ホルモンの作用で
骨盤は自然に締まるような仕組みになっている。
骨盤、骨盤って
騒がれるようになったのはここ10年の話で
昔は産後の骨盤矯正なんてしなかったけど
女性はみんな健康に子育てをしていた。
産後の骨盤矯正なんて、
整形外科的な見地ではハッキリ言って
無意味である」
ほおほお、なるほど・・・^ ^
じゃあ、痛みの原因は?
どう説明するんだろう?
「たぶんね、不自然な授乳姿勢や
抱っこの負担や、慣れない子育てで
身体のいろんなところに疲労が溜まっているんだと思うよ」
ほおほお、なるほど・・・^ ^
28歳女性の診察を終え、
わたしのところに来た医師は
「あっ!助産師さんだったよね。
今の、まる聞こえやったよね?
うわ〜あれでよかったかな」
いえいえ、勉強になりました。
整形外科の医師 VS 助産師。
目の前の症状を、
どの立場の、どの視点からとらえるかによって
診方は変わってくるんですよね。
なので、医師のおっしゃることは一理あり。
20年ぐらい前、
わたしが助産師になったばかりの頃に
母子整体が一躍脚光を浴びました。
妊娠出産と骨盤についての関係が注目されるようになり、
骨盤ベルトの重要性が語られるようになり、
多くの産院では分娩直後にベルトで
骨盤を締める処置がごく普通になっていきました。
街の整骨院、整体院では
『産後の骨盤矯正』の看板が
目立つようになりました。
今は、猫も杓子も骨盤ベルト!
産後は誰もかしこも骨盤矯正!
ママの救世主みたいに賛美されることは
なくなりましたが、
助産師的見地からは
わたしは以下のように考えます。
順調なお産では
会陰や子宮頸管の裂傷から起こる出血や
胎盤からはがれた傷あとからの出血
合わせて平均100~500ml程度の出血があります。
赤ちゃんが大きすぎたり
妊娠高血圧症候群などの母体側の問題があって
子宮の機能が低下している場合、
双子ちゃんの場合、
多産で子宮の筋肉が疲れて伸びきっている場合
(わたしは10人目、コレでした)
妊娠性の貧血がある場合には
出血量は多くなりがちです。
子宮は先細りのタマゴ型をしています。
下側の細い部分の膣側が外子宮口、
赤ちゃんのいる内側が内子宮口です。
外子宮口と内子宮口をつなぐ管を
子宮頸管といいます。
頸管は妊娠中には4~5cmの長さがありますが、
出産のときには伸びて薄くなり
最終的には赤ちゃんの髪の毛が透けて見えるぐらいに
ペラペラになります。
子宮口(頸管)がまだ十分に
伸びきっていないときに
ママが「う~ん!」と強くいきんでしまうと
経管は赤ちゃんの頭と骨盤に圧迫されて
裂傷を起こしてしまうことがあります。
お産がちょうどいいペースで進んでいくと
頸管はゆっくりゆっくり開いて伸びていくので
裂傷を起こすリスクは低くなります。
細かい傷はできるにせよ、
かすり傷程度なので、
出血もほとんど見られません。
でも、ママの骨盤がゆるみすぎていて
赤ちゃんが正しい方向に回旋しないままに
急激に下りてきた場合には
短い時間で一気に強い衝撃がかかるので
頸管は耐えられなくなって
ビリっと裂けてしまいます。
妊娠中、
リラキシンというホルモンの作用で
ゆるみやすくなっているのは
仙腸関節(おしりの割れ目にある骨とつなぐ関節)です。
仙腸関節がゆるんでいることで
仙骨がママの身体の内側・・・つまり
子宮頸管の側にズレて曲がってしまいます。
ちょうど仙骨関節の位置に
子宮頸管が位置しているため、
頸管が仙骨のでっぱりと
赤ちゃんの頭に挟まれて裂けてしまう可能性が
考えられます。
ですから、
たいていは仙腸関節の位置に
頸管裂傷は起きます。
しかも、ちょうど仙腸関節の位置に
子宮に新鮮な血液を運ぶ
子宮動脈や静脈が通っています。
頸管と一緒に子宮動脈が切れてしまうと
大出血は免れません。
こわいですよね・・・。
また、赤ちゃんが生まれたあと
胎盤が娩出されると
子宮の筋肉はすごい勢いで収縮を始めます。
それによって
胎盤があった場所の切れた血管が
圧迫止血される仕組みになっています。
ママの骨盤がゆるんで広がっていると
子宮を支えている靭帯が
前後左右に引き伸ばされています。
すると子宮がうまく収縮できず
胎盤のあった場所の切れた血管もキュッと
縮まらないので
いつまでたっても出血は止まりません。
弛緩出血の原因は他にもいろいろありますが、
骨盤にフォーカスして考えると、
骨盤が締まることで
子宮を支えているじん帯の伸展にゆとりが生まれ
子宮の緊張も解けて
スムーズに収縮することができるようになります。
子宮動脈、静脈は
上の方から子宮頸管に向かって垂れ下がるような形で
位置しています。
子宮が収縮できず、
伸びきったままになっていると
下がった子宮に圧しつぶされる形で
子宮静脈もぺしゃんこになってしまいます。
すると、静脈血がうまく心臓に
戻っていけなくなって出血が増える・・・
ということもあるんじゃないでしょうか。
本来、女性の身体は
出産を終えると骨盤は自然に締まるような
仕組みになっています。
それは、
整形外科の医師がおっしゃた通りだと
思います。
でも、昔の女性と現代の女性、
大きく異なるのは
日々の生活の中での運動量ではないでしょうか。
今の女性は、
昔の女性のような強い筋力、強いじん帯を
持っていないまま妊娠するので
昔の女性が当たり前に有していた
骨盤収縮という生理的機能を
産後にうまく働かせることができなかったり
するのではないかと思うのです。
適度な運動っていうのは
妊婦に限らず健康でいるために
必要なことですが、
仙腸関節の位置に一致した箇所の
子宮頸管裂傷、
分娩時出血、
産後の骨盤の痛みの話を聞くたびに
わたしたちが本来持っている
自然治癒力や免疫力、
そしてそれに影響を及ぼす
さまざまな要素について考えずにはいられません。
2ヶ月児のママの身体が
1日も早くよくなることを祈ります。