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2020.05.27

無痛分娩(2)

さて、昨日の続きです。

硬膜外麻酔の適応は

(1)医学的適応ー妊娠高血圧・前回帝王切開後の試験的経膣分娩
児頭骨盤不均衡、回旋異常など
(2)母体の合併症ー精神疾患・循環器疾患・呼吸器疾患など
(3)産婦の希望

(1)(2)のような明確な医学的適応で無痛分娩が選択されるのは
心情的に産婦さん自身も「しかたがなかったんだ」と
割り切れるかもしれませんが、

「痛いのが怖い」「痛みをとってほしい」
という(3)の理由で無痛分娩が選択される場合、
産婦さんの気持ちはどうでしょうか。

妊婦さん自身の意志で無痛分娩を選択するケースは
ここ15年間、どんどん増えてきています。

無痛分娩が普及する欧米では、
麻酔科医、新生児科医、産科医が揃った
大病院で行われるのが主流ですが

日本ではローリスク分娩を対象にした
小規模な医療機関、19床未満の分娩施設(クリニック)で
行われる無痛分娩が
実は全体の6割以上を占めます。

無痛分娩を強く希望される妊婦さんのなかには
うつやパニック障害など、メンタル面での問題を抱えている
ことも多いです。

無痛分娩を希望する気持ちの奥底には
お産という大仕事を
果たして冷静に乗り越えられるのかどうかという
大きな不安と恐怖心があると思います。

「無痛分娩で痛みを取ってほしい」

それは彼女たちが痛みからただ逃げようとしているのではなく
自分のメンタルを考慮したリスク管理としての
主体的な気持ちがあってこそなんじゃないかと
思うのです。

お産に主体的に取り組もうとする
一種の表現方法であり、
ある意味、ママになろうとする女性の強さだと
わたしは思います!

無痛分娩は現時点、自費なんですよね・・・。
経済的な余裕がある産婦は、
お金を出せば自由に無痛分娩を選ぶことができるけど

経済的ゆとりがない産婦は
お産が怖くても、陣痛を取り除いてほしくても
無痛分娩は選択肢外になってしまいます。

費用の問題が邪魔して
本当に自由な選択ができないのって
どうなんやろ・・・と感じます。

でも、これが
今の日本の産科の現状です。

『産婦さん主体のお産』
『自然なお産』

ってよく言われるけど、
いったい何をもって自由で主体だと
言えるのか?

自然ってなんだ?

深掘りしていくと
よくわからなくなってきます。

例えばわたしは体育会系で
自分を追い込んでナンボという人です。

困難に直面すればするほどやる気がみなぎって燃える、
めっちゃがんばっているときの自分が好き、
そんな自分に酔いしれる〜という変な人。

つまり、陣痛は大好きです!

あえて陣痛に立ち向かいたいし、
その時間を存分に楽しみたいので
(1)(2)の医学的適応がないかぎりは
無痛分娩を選択したいとは思いません。

実際、陣痛は苦痛と感じられず、
お産の途中からランナーズハイのような感覚になって
快感さえ得られます。

このような少数派変人も存在します。

世の中にはさまざまな価値観の人がいて、
それぞれにとって「良いお産」「主体的なお産」の中身も
両極端に異なります。

先日、お産の途中でもう限界だと思い、
無痛分娩に急遽、切り替えてもらったママが

「わたしは陣痛にも耐えられない弱い人間です」

とおっしゃいました。

「痛いのが怖い」「痛みをとってほしい」
と思うのは
ママ失格なのでしょうか?
現実逃避なのでしょうか?

無痛分娩という言葉は、
人の心を混乱させ惑わす言葉なのかもしれません。

その方法が好きか嫌いか、
その方法を導入することが正しいか間違っているか、

なにかと世間的な風潮に影響され
『こうあるべき』に影響されたり、
『産みの苦しみを耐え抜いてこそ』という
よくわからない理論が顔を出してしまうことで
後ろめたい気持ちになってしまうのかな・・・。

必要があれば
促進剤や吸引分娩、帝王切開などの
医療介入の判断を医師とともに決めていきますが

どのような方法であれ
ママと赤ちゃんが無事に出産を終えることを
重視してきたつもりでした。

その反面で
『おなかを痛めた赤ちゃん』『産みの苦しみ』
などの言葉があるように

日本には陣痛に耐えることを美徳とする
文化的歴史が今もなお根強く残っています。

昔、わたしは産婦さんたちに
「一緒に陣痛を乗り越えましょうね!」
と伝えてきました。

乗り越えるお産こそ素晴らしいと思っていました。

医療介入はできるだけしてほしくない、
女性が満足できるお産とはそういうお産である。
みんなそれを望んでるはず!

どこかでそんなふうに信じていて

いろんなお薬を使わなければいけなくなるのは
妊婦の産む力を引き出すことができなかった
わたしたち助産師の力量不足やと
思っていました。(ナニ様やねん)

無痛分娩を選択させる=敗北
(とんでもない価値観やな)

産む力というものは、
助産師の腕次第で引き出せるものだと
思い込んでいたんです。

無痛分娩に関しては
(1)(2)以外の理由、(3)を希望される妊婦さんには
よかれと思って自然なお産を半強制的に勧めていた
ように思います。

それって、明らかに
相手の選択、主体性を認めていないわけで
ただの価値観の押し売りですよね。

助産師は、
自分の価値観を押し付けるのではなく
産婦さんの想いはどうかということを
客観的に観察する能力が必須です。

『いいお産』という表現にも通じますが、
助産師が「勝ち負け」「良い悪い」という評価や感情を
前に出すこと自体、
産婦さんにとってのいいお産を支援することなど
できないんだよな〜。

回旋異常や遷延分娩などで発揮される
硬膜外麻酔の医学的な効果が注目されるだけではなく

これからの時代には、

痛みをとってほしい
陣痛の痛みは不要

という価値観や信念の部分で
無痛分娩はもっと広がっていくのだろうと思うし、
それは悪いことではないと今は思っています。

自宅で、医療者の手を借りず、
旦那さんと2人で無介助分娩をされたママに
出会ったことがあります。

無事に赤ちゃんが生まれてくれたら
「ほら、女性には産む力がある!」
で、片付けられたのかもしれませんが、

その赤ちゃんは分娩時の低酸素で
後遺症を残してしまいました。
医療機関で管理のもと出産していたならば
避けることのできた事故でした・・・。

女性の『産む力』
赤ちゃんの『生まれてくる力』は確かに存在すると思います。
なぜならわたし自身が11回の出産で
その『力』を確信したからです。

ですが、精神論、思想重視の
「自然こそ素晴らしい」のようなキラキラのキャッチコピーだけでは
どうにもならないお産がたくさんある、ということを
無介助分娩の悲しい結末や
わたし自身の10人目のお産(弛緩出血)など
医療介入が必須だった複数のお産を前にして
深く考えるようになりました。

わたしたち助産師は
無痛分娩を選択した産婦の話をよく聴き、
思いを受け止め、ともに出産に挑む姿勢が大切です。

自然思想に焦点が当てられてしまうと
現実の問題の本質が見えなくなってしまう恐れがあります。

無痛分娩を選択される妊婦さんは
決して単純に、
お産の痛みをとってほしいだけではない。

その心の奥にある何か深いものを
感じ取る感性を磨いていきたいと思います!

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