その無痛分娩、麻酔科医は関わっていますか?
硬膜外麻酔による『無痛分娩』。
最近、日本でも
実施している産院が増えてきました。
それでも海外に比べたら
まだまだ実施率は低いのが現状です。
無痛分娩をめぐって、
日本と他の先進国で決定的に違うことが
あります。
欧米では、産科病棟に
麻酔科医が勤務しているのが一般的。
帝王切開や産婦人科手術のほか、
硬膜外無痛分娩の需要が多い欧米では、
産科病棟勤務の麻酔科医が活躍する
場面が多くあります。
仕事が多い分、
産科麻酔医にはしっかりとした報酬が
支払われるシステムになっています。
ですが、無痛分娩普及率の低い日本では
産婦人科に麻酔科医を常に確保しておくことは
経営上難しく・・・
専門外の医療行為(麻酔)を
産科医が行なっています。
硬膜外麻酔による無痛分娩は
「安全である」と説明している
産院は多いですが、
厳密に言えば、
麻酔科医、産科医、
どちらが実施した硬膜外麻酔でも
陣痛が弱まったり
胎児への血流減少に伴う胎児仮死となって
生まれてくるリスクは
ないわけではありません。
大切なのは、硬膜外麻酔による
トラブルが起きたときに
早期に的確な対処をして
母子への影響を最小限に抑えることです。
麻酔科専門医は、
医学的には劇薬や麻薬と
いう位置づけである各種の麻酔薬、
つまり、使い方ひとつで命を左右する強烈な薬を
取り扱う専門職です。
硬膜外麻酔は
麻酔を入れる技術だけが優れていれば
いいってことではありません。
麻酔にまつわるトラブルが起きたときの
迅速、的確な判断と対応、
麻酔導入から産後まで
総合的に観察管理していく高度な能力が
求められるのです。
実は、硬膜外麻酔は
正しい位置に針が入ったかどうかは
目で確認することができません。
医師の手の感覚に頼るのみなんです。
硬膜外腔は本当に狭い空間で、
幅は1センチ未満。
皮膚から硬膜外腔に到達するまでの距離も
人それぞれです。
もし、針が硬膜を破ってしまったら
麻酔薬が脊髄に直接触れることになるので
脳と全身との信号のやり取りが
完全に遮断されてしまうことになります。
それは何を意味するか。
呼吸停止。
心肺停止。
蘇生がうまくできなかった場合、
その妊婦さんは亡くなってしまいます。
医師も人間です。
医学の介入に100%誤操作がないとは
言えません。
現場数をこなしているベテラン医師でも、
100%はない、という初心を
前提に毎回慎重であるべきだと思います。
ですが、日本の無痛分娩の実態は
常勤麻酔科医のいない小さな個人クリニックで
実施されていることの方が多い・・・。
産科医を支える麻酔科医の存在があって
無痛分娩は本当の意味で安全だと
言えるわけで
少なくとも海外の無痛分娩は
そのようなバックボーンを支える体制づくりが
しっかりと出来上がった上で
成り立っているのです。
それに比べ、日本の無痛分娩は
産科医自ら麻酔を行う施設が多く
専門性に精通していない
そういった背景のなか、
無痛分娩による
取り返しのつかない医療事故が
起きてしまったことも過去にありました。
2018年、厚生労働省は
『無痛分娩の安全な提供体制の構築に関する提言』
を発表しています。
産科医が硬膜外麻酔を行う場合、
麻酔科専門医から急変時の対応等を
学ぶ講習会に参加するなど
しなければならないとしていますが、
その講習会だって、実態は
たった半日程度のボリューム!
そんな程度で
ホントに任せて大丈夫なのかな・・・
と正直わたしは思ってしまいます。
旬の無痛分娩を取り入れれば
分娩数が増える♪という
産院経営上の事情もあり、
流行りに乗って軽い気持ちで
無痛分娩に新規参入している施設もあって
一抹の不安を感じたりします。
無痛分娩には、
メリットもたくさんあります。
これから日本でももっと普及すればいいなと
思っています。
(詳しくは過去ブログ参照)
無痛分娩を考えたとき
わたしたち妊婦側が
その産院の硬膜外麻酔体制が
本当に安全であるかどうかを知るすべは、
産院のサイトの無痛分娩の紹介ページに
「硬膜外麻酔を誰が行うのか?」を
きちんと明記しているかどうか
が、ポイントになると思います。
それは、産む側が知っておくべき
大切な情報ですが
公開していない産院も多く、
さらには麻酔科医の関わっていない
硬膜外麻酔のリスクについても
軽く触れる程度だったりします。
麻酔科医なのか?
それとも産科医なのか?
産科医であっても
麻酔科医のもとで2年以上研修を積めば
厚労省から麻酔科標榜医として認定され
安心して身を任せられます。
無痛分娩の産院選びをするとき
妊婦はそういう重要な情報を
きちんと調べてから
本当に安全な無痛分娩を
選んでほしいと思います。